大手銀行を中心に、対面の相談や口座開設などに機能を絞った新形態店舗の出店や計画発表が相次いでいる。「金利ある世界」の到来で、個人の資産運用機運が高まっていることに加え、銀行に預金獲得のうまみが出てきていることが背景だ。長年にわたった超低金利下の厳しい経営環境で店舗網縮小やデジタル化を推進してきた銀行業界に、「リアル」な顧客接点を再評価する動きが広がっている。(時事通信経済部 岩田馨)

銀行を「居る場所」に

 「銀行店舗を『行く場所』から『居る場所』に変えていく」。三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)の中島達社長は、5月に東京都渋谷区にオープンさせた個人向け新型店舗「Olive LOUNGE(オリーブラウンジ)渋谷店」の内覧会で狙いをアピールした。

 三井住友銀行の渋谷支店を改装したもので、1階にはコーヒーチェーン「スターバックス」の店舗を併設。ゆったりとした空間で口座開設や資産運用の相談ができるほか、2階には時間貸しのコワーキングスペースがあり、利用者は打ち合わせや商談、勉強をしながら自由に飲み物を飲むこともできる。店に入ると、番号札を受け取ってカウンターの前で呼ばれるのを待つといった従来の銀行のイメージからはかけ離れた雰囲気だ。

 SMFGでは昨年から、銀行口座とクレジットカード、証券、保険などを一つのアプリ上で完結するサービス「オリーブ」を展開。カルチュア・コンビニエンス・クラブの「Tポイント」と統合した「Vポイント」も売りに、デジタル分野での経済圏拡大を推進してきた。オリーブラウンジはその「広告塔」としての役割も担う。スタバ利用で10%のポイント還元を受けられることもあり、渋谷店には開店後の来店数が1日1450件と改装前(50件)の約30倍に増加。銀行フロアへの来客も1日175件に増えたという。

 三井住友銀はこれまで、合併前の旧行支店の重複解消やコスト削減のため拠点の統廃合を進めてきた。ただ、中島氏は「変えてはいけないものがある」と指摘。「何かあればそこに行って銀行員に相談できることがお客さまの安心につながっていく。店舗は信用、信頼、安心の源泉だ」とリアルの重要性も強調する。

 三井住友銀は「デジタルとリアルのハイブリッドチャネル戦略」を掲げ、改装や移転によって現在約380カ所ある有人店舗のうち250カ所程度を、2025年度末までに個人向けの窓口業務や運用、アプリ利用相談などに機能を絞った軽量店舗へ転換することを計画。このうち一定程度をオリーブラウンジとする方向で、10月には世田谷区・下高井戸に2号店をオープンさせている。

相談ニーズ「爆発的広がり」

 りそな銀行は11月17日、奈良県大和郡山市のイオンモール内に新形態店舗「りそな!n(イン)」の1号店を開設した。支店の統廃合や改装ではなく、約6年半ぶりの純粋な新規出店だ。

 りそなインは、口座開設のほか、資産運用などの対面相談に特化した店舗で、土日も営業する。特徴的なのは、趣味や結婚、健康、マイホーム選びなど、人生のさまざまな悩みや関心事などをテーマにしたセミナーを専門の講師を招いて実施し、集客の仕掛けとすることだ。

 岩永省一社長は「生活の全てに金融との接点がある」と説明。セミナー参加や買い物のついでに立ち寄った人々に、資産運用や各種ローン、相続対策といった解決策を提案していくのが狙いだ。新NISA(少額投資非課税制度)開始も踏まえ、「顧客の(対面相談の)ニーズが爆発的に広がり始めている」とも語り、来年9月までに商業施設や駅ナカなど10カ所程度にりそなインを出店する考えを示す。

 一方、三菱UFJ銀行は今年9月以降、長野県軽井沢町や愛知県長久手市、千葉県流山市のショッピングモールに期間限定で個人向けの小型店舗を試験的に設置した。資産運用や相続、住宅ローンなどの相談に特化した店舗で、ニーズを見極めた上で来年から本格展開することを視野に入れている。

 三菱UFJフィナンシャル・グループの亀沢宏規社長は、店舗網を大幅に縮小してきたこれまでの路線を転換し、「これからは商業地域に店舗を増やしていく」と強調する。三菱UFJ銀は来年度入社から、顧客対応を中心に支店経営のプロを目指す採用枠を設けるなど、対面相談の人材育成にも力を入れる。

 大手行ではこのほか、みずほ銀行も11月7日、資産運用の相談や口座開設などに特化した新形態の小型店舗「みずほのアトリエ」の出店計画を発表した。来年3月に神奈川県内のショッピングモールに設置する2店舗を手始めに、全320~330店舗のうち約70カ所を移転・改装し、「アトリエ」に転換する方針だ。

 これら各行の新型店舗はいずれも、人流の多さや立ち寄りやすさを意識しており、週末も営業している点が共通している。これまでの駅前を中心とした面的な店舗展開とは一線を画す動きだ。

店舗数、30年間で6割減

 江戸川大学の杉山敏啓教授の集計によると、大手銀行の有人店舗数(店舗内店舗などを除いた実拠点ベース)は1993年の4045カ所をピークに減少。2023年には1656カ所と6割減にまで落ち込んでいる。

 銀行業界では、超低金利下の厳しい経営環境が長年にわたって続き、営業から業務、審査部門までそろえ、多数の人員を配置する従来型支店の維持コストが収益の重しとなってきた。また、人口減少への対応や、他行と統合・合併による重複店舗解消の必要もあり、各行ともこれまで店舗網を大きく縮小させてきた。

 こうした流れはデジタル化の進展でさらに加速。特にコロナ禍を経てオンライン取引が普及し、多くの手続きはスマホさえあれば家にいてもできるようになったことで、銀行店舗を訪れる必要性は薄れてきた。

 全国銀行協会が今年実施したオンライン調査では、銀行窓口を月1回以上利用する人の割合は23・9%と、18年の調査(27・5%)から低下。一方、スマホ向けのネットバンキングを月1回以上利用した人の割合は30・5%(18年は12・8%)と大幅に伸びて窓口利用を逆転し、オンラインシフトが鮮明となっている。

競うデジタル・リアル融合

 ただ、杉山教授は「実店舗を縮小してオンライン取引にシフトする戦略だけでは、ネット専業銀行と比べた競争優位性が発揮できない」と指摘する。

 コスト面でネット専業行に劣る大手行は、預金金利などの優遇を売りに勝負するのは難しい。各行が新形態の店舗を打ち出す背景には、「リアルチャネルを持つことの競争優位性を保持して、既存顧客をネット勢に取られないよう防衛したり、新規口座獲得で競り負けたりしないようにする」(杉山教授)という差別化戦略への転換があるとみられる。

 ある大手行幹部は「店舗にはものすごくコストがかかっていたのでいっぺんに減らしてしまい、肝心の相談場所がなくなっている」と語り、顧客の利便性を犠牲にした行き過ぎた店舗網縮小の弊害を認める。

 折しも、金利上昇によって銀行は融資や市場運用の利ざやが改善。収益拡大の機会が広がる中、その運用原資となる預金を獲得する重要性も増してきている。特に他行などへの流出が起こりにくい「粘着性」の高い預金が必要とされ、個人顧客をつなぎとめるさまざまな仕掛けが求められるようになったことも、リアル再評価の背景だ。

 住信SBIネット銀行やauじぶん銀行といった住宅ローンの低金利などを売りにしてきたネット専業銀行にも対面の相談拠点を拡充する動きが出ており、銀行業界はデジタルとリアルの融合を競う新たなフェーズに入ったと言えそうだ。

 もっとも、店舗を新形態に変えても「保険商品や投資信託が飛ぶように売れるとは考えにくい」(杉山教授)のが実情。来店数が増えても、粘着性の高い預金増加にどれだけ寄与するかも未知数だ。恐らく、立ち寄ってコーヒーを飲んだだけ、話を聞いてみただけで終わってしまうケースも少なくないだろう。

 新形態の店舗の多くは商業施設などにテナントとして入居し、運営コストが少なく機動的に展開できる点がメリットではある。ただ、店舗単位の採算だけで安易に出店・撤退を繰り返せば、銀行の信頼失墜にもつながりかねない。必ずしも店舗に紐付かないオンライン取引が加速する流れに変わりはないとすれば、こうした新形態店舗の収益貢献度をどう評価していくかも課題となりそうだ。