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 お笑いコンビ「」の氏が、性加害疑惑を報じたの昨年末の記事を巡り、発行元の文芸春秋などに5億5千万円の損害賠償と謝罪広告掲載を求めていた訴訟を取り下げた。

 文春は、女性2人が2015年に松本氏らとホテルで飲食した際、性的な行為を強要されたとの証言を報じた。松本氏は今年1月に提訴した。

 取り下げの理由は「これ以上、多くの方々にご負担・ご迷惑をお掛けすることは避けたい」とした上で、自らが出席した会合に「参加された女性の中で不快な思いをされたり、心を痛められた方々がいらっしゃったのであれば、率直にお詫(わ)び申し上げます」とするコメントを発表した。

 告発された疑惑にどう答えるのか。この記述からはわからない。社会的影響力の大きな人物として、正面から説明することが強く求められる。

 コメントの冒頭では、「強制性の有無を直接に示す物的証拠はないこと等を含めて確認いたしました」とした。証拠の定義をきわめて絞った上で「ない」と強調した表現は誤解を招く。

 高額なは、被害申告や報道を萎縮させる効果を持ち得る。訴訟の取り下げは、ふり上げたこぶしを自分の都合で下げただけだ。証拠についての言及とあいまいな謝罪を見て、あたかもみそぎが済んだように考えるとすれば、全くの錯覚だ。

 松本氏が所属するは報道直後、「当該事実は一切ない」などと発表した。一方、提訴後のコメントでは、社外有識者を交えたガバナンス委員会から、「事実確認をしっかり行った上で、何らかの形で会社としてのを果たす必要がある」などと指摘を受けたとした。今こそ説明する時機である。

 松本氏は、裁判に注力するとして活動を休止していた。その間もテレビ局はレギュラー番組を本人不在で続けた。今後、もし松本氏が復帰を目指すのであれば、テレビ・動画配信サービス各社には、松本氏や吉本興業側に納得できる説明を求めた上で、出演可否の判断をすることが求められる。局側もまた、社会への説明責任を負う存在である。

 を受け、多くのテレビ局が「人権方針」を定めた。その真価が問われる。民放各社には吉本興業の株主も多い。仮に何事もなかったかのように番組が再開すれば、タレントの人気を前に、人権を軽視する構造を上塗りすることになる。その中で再び同様の問題が繰り返される事態は、避けなければならない。